『半落ち』

映像化してたか見覚えのあるタイトル
いい話で描写が丁寧で他人に勧められる名作なのは確かなんですが
ちょっと濃いというか、やらしい感もありますw

取り調べで被疑者が犯行を認めてすべて自白することを刑事の用語で完落ちというそうで
犯行までのすべてを語ってて事務処理上は問題ないけれど
自首するまでの2日間について黙秘する「半落ち」の被疑者と
その空白の謎に迫る人たちの物語です

現場上がりの腕利きの刑事の視点で始まって
ここの攻防が展開するかと思いきや
検事や記者の視点に次々切り換わっていきます
それぞれの立場が専門性をともなって描かれ
物語全体の魅力や厚みを増しているのですが
これが6人そろいもそろって窮屈に生きてるんですよ

筋を通し誇れる仕事をしようとするも組織の圧力に屈する…
世の中苦しいことうまくいかないことだらけなのが現実とはいえ
6分の6じめじめしてるのはどうなんでしょう
みんな頑張って生きてる、つらい、でも希望はある、どうだいい話だろう
って作者がドヤってるのが透けます

そりゃ上手く立ち回ってウハウハ保身してる人や
フェアに努力して幸せをつかんでる人だっている訳で
1人2人ならまだしも
ことごとく抑圧されてれば偏ってるなあって感じますよ

(ちょっとネタバレ)
謎の部分はざっくり2つ思い当たってどっちも不十分だな~と読み進めたら
両方合わせて正解でした
順当な着地で、まあ日本人の好きなというか
中高年の好きなメランコリックな人情話ですよね
(ここまで)

微妙に気になったのが伏せ字的な頭文字のアルファベット
舞台はW県ってことで和歌山をイメージしてたら
南に東京があるって位置情報が
さらにちらっとL署(警察)なんて名前も…

日本の地名にLある?セントレアみたいにハリキったやつ?
無作為なのか、逆に特別な意味があるのか

そして歌舞伎町ってそんなにエロいイメージなのか
警察官はこんなに軍人みたいなメンタリティなのか
多少認識にズレを感じました

もうちょっと掘りましょう

この事件が大事になったのは警察が事実を隠蔽して
検察が乗っかったことがベースにあります

ルールや道理に反してまで私欲や保身に走る個人の人間性には反吐が出ますが
原因はそこだけじゃなくて
警察や検察ほか、真相を明らかにし適切に裁くという共通のゴールを目指してるはずの
各組織の利害と足並みがそろわない、この構造的な問題

さらに責任のある本人に止まらず組織や上司を責める世間の風潮にも責任がある
厳しい目は確かに重要ですが過剰になるとこういった隠蔽体質を招きます
そこに関しては所詮フィクションと簡単に片づけられない
現実に起こり得る話だと思います

メインテーマの他にもこうして議論を呼び起こしてくれるあたり
やっぱり一流の作品は違いますね。

タイトルとURLをコピーしました