『帰還兵はなぜ自殺するのか』

イラク帰りの軍人やその家族、治療に関わる人たちのドキュメント
不調は本人にとどまらず周囲の人に連鎖していきます

表題のなぜ自殺するのかは軍をあげて追及していきますが解明には至らない
当然っちゃ当然です
そもそも原題はTHANK YOU FOR YOUR SERVICEなのでがっつり意訳

社会に大きな傷跡を残したことが伝わってくる本で
攻撃されたイラク側も無傷であるはずがない
その意味でそもそもアメリカがちょっかい出したんだろという見方はありますが
前線の一兵卒は言われるまま戦ってるだけでもある

また本書でイラク帰りの兵士に焦点を当てる中で
朝鮮・ベトナム戦争の傷を抱えたままの人たちの存在にも触れられます

しかし一見不思議なのは
死に直面する恐怖を味わった結果臆病になったり保身傾向が強くなったりしそうなところ
逆に多くの人が自ら死を選んでしまう点です
直接戦闘してない日本の自衛官からも自殺者が出てる

乱暴な言い方をすると“狂ってしまう”ということなんでしょう
平和な世界とかけ離れた世界に直面することで

ちょっと踏み込んでみると
逆にもともと死が身近にある世界ならこんなに失調者が出るだろうか
戦国の世や原始に近い時代はどうだったんでしょうね

もちろん戦ってない人間が戦った人間を見下すなどあまりに卑しいことです
一方毎日が文字通り食うか食われるかの動物たちからしたら
「人間は平和ボケした甘ったれな生き物だな」と見えるかもしれない

当然戦争は極力回避するよう努めるべきです
しかし時に、自然界は弱肉強食であることを思い出す機会があってもいい
屠殺という工程があることも知らずに加工品ばかり食べてれば
生物としての感覚は鈍りますよ

進化の歴史を学ぶように、あるいは災害に備えて訓練を行うように
時に命や自然界の本来の姿を再確認することが
人間という種を弱らせない上で必要ではないでしょうか

なおドラマのように深刻なノンフィクションで非常にシリアス、
訳者あとがきにも「メランコリーもアイロニーもなく」とはあるんですが
アメリカンな文体の翻訳のため若干感覚の文化差というか、戸惑いはあります…

タイトルとURLをコピーしました